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車の操作をタッチパネル化した結果

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デジタル化された操作系は使いにくいという認識が広がる

自動車に電動化の波が押し寄せて久しくなりました。EVが増えたというだけのことではなく、自動車の補機類や駆動系にも電動化されたパーツが増え、ドライバーが扱う操作系統にも電動化が一般化しました。

分かりやすいところでは、従来までレバーで引っ張っていたパーキングブレーキがほとんど電動化され、ボタンひとつでブレーキを掛けることができるようになっています。

また、多くの車ではギアポジションも電気的な接点で切り替えるようになっており、ボタンでギアを操作する車種も増えました。現時点では、自動車メーカーによって、その電動化具合は違いますし、ボタンの配置やデザイン、操作感までまちまちです。各メーカー間で統一される気配はいまのところありません。その結果、一部の車種ではパーキングブレーキの「P」と、ギアポジションのパーキングの「P」が双方ともボタンになっていて、「P」ボタンが2つあるという車も存在します。さらに自動制御パーキングブレーキのための「P」ボタンもついていたりして、乗りなれない人は大混乱でしょう。

加えて、一部のEV車などでは、車両の操作系を大型タブレット状のタッチパネルに統合しています。そのため、エアコン操作など、タッチパネルの階層を探って操作するようになっています。仕組み的には、ギアポジションのボタンもタッチパネル化は可能なので、すべての操作をタッチパネルのみで行う車種が登場してもおかしくありません。しかし、そんな流れに待ったを掛けるようなニュースが報じられました。

タッチ操作は使いにくかった? 米海軍が駆逐艦の操作を“アナログ”に戻す決断の教訓

米海軍が駆逐艦のタッチスクリーン操作を撤廃し、昔ながらの物理的なスロットル操作に戻すことを発表した。海軍全体で過剰なデジタル化に対するフラストレーションが蓄積し、現場でも習熟が進まなかったことなどが原因だ。こうした動きからは、人間と機械とのインターフェースに共通する課題と教訓が浮き彫りになってくる。
タッチ操作は使いにくかった? 米海軍が駆逐艦の操作を“アナログ”に戻す決断の教訓

駆逐艦の制御にタッチスクリーンを導入していた米海軍が、昔ながらの物理的なスロットル操作に戻すことを決断した。

米海軍海洋システム司令部が8月9日に発表した今回の決定は、駆逐艦を操縦する船員らがタッチスクリーン式の統合船橋・航海システムを十分に理解していなかったという調査結果に基づいている。この調査は米艦隊総軍と国家運輸安全委員会(NTSB)によるもので、2017年に発生したミサイル駆逐艦「ジョン・S・マケイン」と貨物船との衝突事故の一因が、統合システムの欠陥と誤った使用によるものであることが示されている。

米海軍協会ニュース「USNI News」の記事によると、タッチスクリーン式のシステムを物理的なスロットルに戻すには、18〜24カ月かかるという。

国家運輸安全委員会の報告書でも、同じようにインターフェースの欠陥が指摘されている。さらにシステムのバックアップ用に用意されていたマニュアルモードについても問題があったことを強調していた。司令官のなかには、ドックへの出入りの際にマニュアル操作を積極的に利用する者もいたという。また、システムがマニュアルモードでコンピューターによる支援機能も併用していた際に、ほかの持ち場の後方にいる船員らが意図せず一方的に操舵の制御を引き継ぐことができていたことも、安全調査官の調査で明らかになっている。

デジタル化によるフラストレーションが蔓延

報告書では、ジョン・S・マケインと貨物船の衝突事故や2017年に西大西洋で相次いだ別の衝突事故について、別の要因の存在も指摘している。海軍による不十分なオペレーション、船の司令官の監督不備、そして乗組員のミスを招いた疲労の蓄積などだ。

海軍の内部調査によると、明らかに複雑なデジタルシステムによるフラストレーションが、海軍全体に蔓延していたようだ。「物理的なスロットルを取り上げられてしまった、という意見が海軍から最も多く寄せられていました。現場からは『われわれが使えるスロットルが欲しい』という声が出ていたのです」と、船のプログラムを統括する海軍少将のビル・ガリニスは最近の講演で語っている。

機械工学を専門とするデューク大学の博士研究員で、米海軍の航空母艦のシステム設計に注目してきたウェストン・ロスによると、こうした不満は決して新しいものではないという。「(海軍隊員は)レヴェルの低い技術を好む人の集団になりがちです。というのも、そういった技術はどんなときでも機能するからです」と、彼は言う。

米海軍海洋システム司令部広報官のコリーン・オルークは、海軍は「水上艦のブリッジの設備の構成を共通化していく方向に向かっている」と説明している。これによって船員らによるシステムの操作だけでなく、海軍による訓練も容易になる。

システムに潜む課題

こういった問題は、人間が機械とかかわっていく際にしばしば浮上してくる。すなわち、安全を重視すべきデジタルシステムであるにもかかわらず、ユーザーの好みやニーズとはかけ離れていたり、ユーザー側の準備が整っていなかったりする問題だ。

例えばボーイングは、航空機をソフトウェア制御するフライ・バイ・ワイヤによるシステムを1990年代に初めて導入した際に、パイロットが慣れ親しんでいた物理的な操縦かんとボタンを苦労して“模倣”している。ところがパイロットたちは、ボーイングが新型旅客機「737MAX」の設計変更を補うために導入したソフトウェアの存在について注意喚起していなかったとして、苦情を申し立てた。この機体は19年3月以降に2件の墜落事故を起こしている。

自律走行車の世界では、Uberのテスト車両がアリゾナ州で歩行者をはねて死亡させる事故を防げなかったことが問題視されている。このテスト車両は、監視員が運転席でクルマの進行方向を注視する仕組みになっていたが、事故を防ぐことができなかった。技術者たちは、監視員が不測の事態に備えて自律走行車の運転席に座っているだけという単調な仕事を前提としたシステム自体に、問題があるのではないかと指摘している。

それでも、デジタルシステムやタッチスクリーンを完全に廃止してしまうような決断は、誰にとっても、ましてや米海軍にとっても珍しいことだ。人間がかかわったことで機械が本領を発揮できないことが明らかになったとしても、同じことである。そして人命にかかわる場合には、プロは物理的なモノに手をかけておきたくなるようだ。

WIRED.jp タッチ操作は使いにくかった? 米海軍が駆逐艦の操作を“アナログ”に戻す決断の教訓

あらゆるモノをデジタル化しようとする動きに「待った」

この記事は近年稀に見る、優れた分析を伝えるもので、非常に示唆に富んでいます。

記事は駆逐艦のデジタル化に対する乗組員の反応を元にした軍の対応を伝えています。まず着目したいのは、デジタル化に伴って、バックアップ手段、つまりマニュアル操作も残していたにも関わらず、うまく機能していなかったという点です。これは、あるEVメーカーの事故ニュースを思い起こさせます。電動化を前提に、ドアのハンドルを無くし(埋込式にし)、緊急時はアナログ操作ができるようにしていたという車種です。ところが、実際に車両が発火するという事故が発生した際に、事故に巻き込まれた人はアナログでの操作方法を知らず、燃える車内に閉じ込められてしまったという事故です。結局はメーカーが用意した方法ではなく、強引な方法で救助され一命を取り留めたようですが、非常に記事と似た事例です。

自動車でも航空機でも、操作するのはあくまでも「人間」

そして、本件の海軍の駆逐艦だけでなく、過去には航空機もデジタル化に伴って操作に問題が発生し、重大な事故まで起こっていたということです。デジタル化する前までの機械的な操作系統は、基本的に人間の本能に沿ったものでした。例えばレバーやハンドル、操縦桿といったもの。これらは、自転車や人力車のように、人間の力でものを動かす場合の延長上にあるようなイメージで、非常に直感的なものです。ところが、デジタル化すると人間の直感とはかけ離れていき、本能的に操作することが難しくなります。これが、先に述べたバックアップ手段としてアナログ操作系を残すことの難しさにもつながっているでしょう。また、デジタル操作、半自動運転が進むと、急に人間がアナログ操作することが難しくなるという問題も指摘されています。これは、オートパイロットが進んでいる航空機はもちろん、自動運転の実験が進んでいる自動車にも言えることです。常にアナログ操作で運転するよりも、急に短時間だけアナログ操作を要求される方が、却って高いスキルや集中力が求められるのです。

一般的にデジタル化や電動化は、それまでのアナログ的な仕組みの代替手段として、そして革新的なものとして、盲信される傾向にあります。しかし、車をはじめ航空機も船舶も、事故を起こせば重大な人身事故となるものであり、あくまでも道具であるということから、人間の本能に寄り添った操作系統が常に必要であることを忘れてはいけません。

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